どうも、太いタイヤがエライ、カッコイイ、という風潮があるよね。オレもかつて、180/55とか履いてみたことあるけど、たしかにレプリカに太いタイヤを履かせると、GPレーサーみたいで一見カッコよさげだ。だけど、本当のところはどうなんだろう。
ああいう太いタイヤというのは、フルバンク近辺でも大きな接地面積を得られるから、大きなパワーを掛けられる、というのだけがメリットで、まず他にはいいとこないね。リーンは重ったるくなるし、バネ下も重くなってしまってドタバタするし。なにより思ったより曲がっていかないアンダー傾向になる場合が多い。そのくせ値段も高い。
TRX850は80馬力前後だけど、リヤタイヤは160/60だ。リム幅は5インチ。さすがYAMAHA、ハンドリングを解ってらっしゃる。適切な軽快感を出しつつ、必要十分なグリップ力ってことで、ベストマッチだと思う。FCRとか入れてチューニングしても、170/60で充分ってとこか。どっかのメーカーが250に180/55なんて履かして喜んでるようだが、神経を疑うね。
バイアスタイヤに比べてラジアルタイヤってのは、同じ剛性を確保するのにタイヤ自体を軽く造れるし、タイヤの構造自体を柔らかく造ることができる。トレッド面も、へこむ方向には柔らかいが、膨らむ方向には頑丈だ。サイドウォールも柔らかい。タイヤ自体はゴツゴツで、ゴムそのものの摩擦でグリップを稼ぐバイアスタイヤに対して、タイヤ全体でダンピングし、必ずしも摩擦係数の高い(つまり摩耗も早い)ゴムを使わずともグリップを稼げるラジアルタイヤ、と言えると思う。
ここ数年、DUCATIなどのビッグツインが、日本のお家芸と言える並列4気筒のハイパフォーマンス・バイクに、趣味性や面白さだけでなく、実際の速さで対抗できるようになってきた背景には、このラジアルタイヤの普及ってのがある。これはビッグツインには欠かせないものなんだ。
軽量な車体を生かして、ブレーキングでハードに突っ込もうにも、ダンピング性能が低く、ゴツゴツでグリップの悪いバイアスタイヤではそんなことできなかったし、コーナーの後半から立ち上がりにかけてトラクションをかけようにも、バンク中にビッグボア・ツインの生み出す1発1発のトルクを充分に受け止めるだけのグリップがなかった。
だけど、今はラジアルタイヤが標準の時代だ。そこにはラジアルタイヤなりの巧いトラクションのかけかたってのがあると思う。
トラクションをかける、というのは、アクセルをあけて、タイヤに駆動力を伝えること、としよう。いろいろとバイク関係では用語が錯綜しているので、はっきり定義しておこう。で、トラクションをかけると、バイクは進行方向への安定性を強めるようにできている。つまり、直線を走っているときにトラクションをかけると、バイクの上で多少上半身を左右に振ったくらいでは進路は乱れずにひたすら真っ直ぐ走る。同じように、一定のバンク角で旋回しているときにトラクションをかけると、少しくらい体を動かしても、その旋回半径をガンとして保とうとする。実際に速度が乗りすぎて、同じ旋回半径を保てなくなるまでは。
だが、同じトラクションをかけるにしても、直進しているときと旋回しているときでは、タイヤの振る舞いは大きく違う。旋回しているときにトラクションをかけると、サイドウォールがたわむように変形して、内向力を発生する。タイヤにもよるけれど、おおむねこういう傾向がある。
4輪車でハンドルを切ると、フロントタイヤに舵角がつくけど、実際にはフロントタイヤの向きと、進む方向には微妙な差があって、その差をスリップアングルと言う。で、車のフロントタイヤに発生する内向力は、このスリップアングルに比例する(のだったと思う)。これは、車のタイヤには主に横方向のG、つまり横Gがかかっているからなんだけど、実は、バイクのコーナリングにも使えたりする。
バイクはたとえコーナリングしている最中でも、基本的には横Gを受けることはない。バンク角が速度と旋回半径に対して適切である限り、受けるのは縦Gだ。が、リーンウィズでは難しいが、ハングオフで乗っているならば、バイクのリヤタイヤにも横Gをかけることが可能なんだ。やり方は簡単で、本来必要なバンク角よりもちょっとだけバイクを起こす。こうすると当然、外へハラんで行こうとするんだけど、思い切ってイン側に体を預けるようにして、全体的には釣り合うようにする。
この状態でトラクションをかけると、多少なりともリヤタイヤに横Gが発生して、それに伴なって内向力が増す。つまりアクセルを開けて速度が上がりながらも、同じ半径を保つどころか、インに寄っていくことすら可能だ。トラクションをグングンと強くかけながら、あたかも車のハンドルを切るように、体をイン側にひねってリヤタイヤをイン側に向けるような入力をすると、ますます旋回力を強めることができる。スキーでいうところのアンギュレーションというか、そんな感じの入力をするワケだ。
タイヤにも寄るし、路面にも寄るが、こうして少しだけ横Gをリヤタイヤにかけた状態を保ってトラクションをかけると、かけすぎでリヤタイヤがブレークするときの兆候が掴みやすくなるのも大きな利点だ。リヤタイヤの真上にドンと乗っているだけだと、ともするとズバーッと大きくブレークするまでわからない場合もあるが、横Gを発生する状態というのは、いわば最初から少しだけバランスの外れた状態なので、かえって滑り出しが掴み易くなる。
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