ハングオフは必要か


重心をわずかにイン側にずらすと、いくらでもリーンし続ける、みたいなことを書いたが、実際にはなかなかそうはならない。最近のバイク、とくに1000ccとかのビッグバイクでは、リヤに180/55とか、すごいのだと190とかの太いタイヤを履いているが、こういう太いタイヤを履きさえすればよく曲がるようになるか、というとどうかねぇ。

太いタイヤの一番のメリットとして考えられるのは、もちろん接地面積の増大だ。というか、これ以外にメリットはない、とさえ言える。それだけのメリットがあればいいやんけ、という意見もあろう。だが、こういう太いタイヤに乗ると、リーンウィズだと違和感を感じるようになるはずだ。どうもうまくスムーズに寝ない、バンクしている最中に腕に力が入ってしまう、などなど個人差はあろうが、きっとなんか変な感じってあると思う。

これは結局どういうことかというと、車体の真ん中に座ったままで重心をイン側に移動するだけでは不足しているってことだ。リーンというのは、リヤタイヤの接地点を中心に、イン側に孤を描くように倒れ込んでいくわけだが、リーンしていくにしたがって、接地点そのものもリヤタイヤのイン側へ、つまり端の方へ移動している。(実際にはリヤタイヤの接地点は「点」ではなくて「面」なので、これからは接地面と書く。)

180/55なんてタイヤを履いていたら、接地面はそれこそ何cmもイン側に移動してしまう。大体においてワイドなタイヤほど偏平率が少なく、ぺったんこなタイヤになっていくので、ますます接地面がイン側へ移動する量が増えるよな。そうすると、リーンウィズだと、何だか体がアウトに残っているような感じがするはずだ。そりゃそうだ、実際にタイヤの接地面より外に座ってるんだもん。

この違和感を解消するためには、オレはスポーツライディングしない、という人であってもシートのど真ん中に座らず、ほんの10cmでいいからイン側に座り直してみることを薦めるね。ハンドルが低く、前傾姿勢で乗るバイクならなおさらだ。そう造られてるんだから。むしろ、その程度腰を入れて初めてリーンウィズなのさ。

ちょっと脱線しかけたけど、スポーツライディングするときに、ハングオフにはどんなメリットがあるのだろう。ひとつひとつ上げて書くと長くなるが、ひとつひとつ上げて書こう(^-^;)

ハングオフって、なにもコーナリング中のあのカッコだけを言うんじゃないと思う。ストレートが終わり、ブレーキングを始める前に、すでにハングオフは始まっているよね。まず1つめ、ハードブレーキングに耐えられる、というか耐えやすいし楽ができる、というメリットがあると思う。

ヘラクレスみたいな筋肉モリモリの人だって、強烈な減速Gに対して、バイクのど真ん中に座って、ふとももでタンクを挟むだけでこらえるのはむちゃくちゃツライ、というかほとんど不可能だ。ズズッと前に出ちゃうか、またはハンドルで体が前に行かないように減速Gに耐えるってことになるだろう。

リーンする瞬間に、舵角がつくのを妨げないようにうまく腕から力を抜けるならそれでもいいかも知れんが、そうはうまく行かないよな。その点、減速を開始する時点ですでに体をオフセットしておけば、タンクの後端に、アウト側の足を引っかけるようにして、つっかい棒にできる。どんなに減速Gがかかろうが、下半身は物理的にそれ以上前に出ないんだから、リキんで支える必要自体がない。最近のバイクのタンク後端がエッジのようになっているのは、これを前提にしているからだ。後は上半身を背筋で支えれば、腕に力など入れなくても楽々と減速Gに耐えられる。

2つめは、重心をイン側に移動させる距離がすばやく、そして充分に取れることだ。ハングオフってのは、リーンをしつつイン側に体をオフセットしていくワケじゃない。あらかじめ減速を開始する時点で、下半身をイン側にオフセットしておき、上半身は逆にアウト側に倒すようにして、トータルで重心の位置は真ん中、という状態を作り出しておくものだ。

で、ブレーキングが終わって、いざリーンを開始するとき、アウトに残していた上半身をそっとイン側に入れるだけで、イン側に大きく重心は移動することになり、グーンとリーンしていく。リーンウィズだと重心の移動量は少ないので、まさに重力で引っ張られて傾いていくのを待つ感じがあるが、あらかじめオフセットしておくと、その場で自分から転ぶかのようにグラリとリーンできる。

リーンを開始してから、同じバンク角に達するまでに必要な距離がとっても短く済む。てことは、結局、リーンしていく過程で、強く向きを変えることができるわけだ。

3つめとして、同じスピードで同じRを描くときに、より少ないバンク角で済む、というのがあると思う。バンク角はできるだけ少ないほうがリスクも少ないと思うんだが、リーンウィズだとどうしてもバンク角が深くなりがちだし、ならざるを得ない。トラクションを掛けていくときにも、ハングオフの方がはるかにやりやすいし、リヤタイヤの状態が掴みやすい。タイヤの真上に乗っていたのではわかりにくいリヤタイヤの挙動や状況が、タイヤから離れた位置にいるおかげで、かえってよくわかる。

スポーツ走行だけでなく、先の見えない峠道でも、アプローチで強く向きを変えてマージンを保ち、トラクションを掛けて、バンク角に頼らずコーナリングする、という走りにはハングオフが一番だ、と思う。なにも無理してヒザをするためじゃないんだ。


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