好みのバイク像


オレの好みのバイクってのは、やっぱりシングルか、ツインだね。おしまい。

じゃ面白くもなんともないんで、なぜシングル、ツインが好きなのか、オレなりに分析し、バイク雑誌の受け売りじゃなく、自分の言葉で書いてみようと思う。

トラクションのレスポンスとエンジン構成

オレが一番大事にしたいのは、やっぱり、アクセルを開けた瞬間のレスポンスだ。ここで言ってるレスポンスってのは、アクセルを開けて、燃焼が復帰するまでのレスポンスぢゃないよ。アクセルに対して俊敏に反応するエンジンというのはマルチでももちろん可能だ。実際にインジェクションで吸気しているものなんかだと、反応そのものにはほとんどタイムラグはない。

が、リヤタイヤに駆動が伝わるレスポンスというとどうだろう?

シングルなら、エンジンの爆発1発1発がそのままトルク変動としてリヤタイヤに伝わる。もちろん、アクセルを開けた瞬間に、リヤタイヤがガッと路面を蹴る感触がもっとも掴みやすいし、実際にレスポンスももっとも鋭い。

ツインはどうだろう。並列ツイン、Lツイン(90度Vツイン)、ボクサーツインなどいろいろなシリンダーレイアウトがあるので、それぞれに違った特徴があるが、開けた瞬間にドンとトルクがリヤタイヤに伝わるレスポンスの鋭さは、シングルと並んで甲乙つけがたい。

日本車で全盛のマルチは、このアクセルを開けてから有効なトルクがリヤタイヤに伝わるまで、どうしてもタイムラグがある。これだけはエンジンの機構上、どうしても消すことはできない。アクセル全閉の状態から開けていったとき、まず最初のシリンダーで燃焼する。このときは実に4分の1の排気量ぶんしか仕事をしていないのだ。だが、ライダー側はとっくに加速の体勢を整えている。つまり、4つのシリンダーすべてに火が回るのをライダーに待たせていると言える。

これがオレには我慢がならない理由・その1だ。だからシングル・ツインが好きなのだ。

回転数と発生トルク

マルチの魅力としてよく言われることに、どこまでも回っていく、とか高回転の気持ちよさ、などがあるが、これらはオレに取っては魅力がないどころか逆に好きじゃない部分だったりする。

同じ排気量のシングル、ツイン、マルチのカタログスペックを見比べてみよう。一目瞭然だが、最大出力がもっとも高いのはマルチ、次がツイン、シングルは大きく劣っているだろう。だが最大トルクはどうかというと、実際のところ、そんなに差はないように思える。

ではなぜこんなに最高出力の数値に差が出てしまうか、というと、単にマルチは高回転で最大トルクを発生し、シングルはより低い回転数で、ツインは両者の中間で発生しているからだ。さらに、一般的な傾向として、マルチは右上がりのトルク曲線なのに対し、ツインはフラットで、シングルに至っては最大トルクの山を越したら右下がりのトルク曲線というのも珍しくない。

最高出力という数値は、極端に書くと「最大トルク×発生回転数」に比例するので、同じ程度のトルクなら、より高回転で発生するようにすれば、最高出力の数値は大きくなるのだ。

だが、ここでちょっと待てよ、だ。

大排気量のシングルなら、ほとんど常用しているような回転数で、開けた瞬間に最大トルクのほぼ100%を引き出せる。そのかわり、すぐに頭打ちになってしまい、回し込んでも回るだけで増速はできない。対してツインは、ほぼシングルと同様だが、より高い回転域まで余力を残しているぶん、常用回転数では最大トルクの80%程度が瞬時に引き出せるといった感じだろう。ではマルチは?

マルチは前の項目でも書いたとおり、燃焼状態が良好になるまで待つ必要がある上、回転数そのものも上がってくるまで待たないと、車体を押し出すようなトラクションは期待できない。常用回転数では、せいぜい最大トルクの60%というところだろう。

サーキットのような決まりきったコースで、自由にミッションをセットアップでき、高回転を維持できるような限られたシチュエーションでない限り、シングル・ツインの方が、よりライダーの意志に忠実に走るのは明白だ。マルチはかったるすぎる。

特に日本のワインディングのような場所では、開け続けて高回転が云々というようなセクション自体が少ないうえ、ほとんどが開けたり閉めたりの繰り返しだ。つまり、高回転を維持するどころか、逆に中回転域を強いられ、たまに出くわすヘアピンなんかで思い切り低回転に落ち込まさざるを得ず、マルチは立ち上がりでアクセルを開けてイライラと待つことになるだろう。

これがオレには我慢がならない理由・その2だ。だからシングル・ツインが好きなのだ。

トルク変動とエンジン構成

アクセルを開けて、リヤタイヤにトラクションをかけていくときのことを考えてみよう。実際には、一定のトルクが連続してかかり続けているわけでは決してない。そこにはエンジンの構成と密接に関係したトルク変動、つまり脈動が存在している。

一番ハッキリわかるのはシングルだ。ドカドカドカと、排気音とまったく同じ周期で、リヤタイヤが地面を蹴っている。シリンダー内でドカンとガスが燃焼し、リヤタイヤを回したら、次の爆発までは完全にお休みで、リヤタイヤにトルクがかかることはない。これがどんなメリットをもたらすか、というと、タイヤのグリップが良くなるのだ。正確に言うと、タイヤをグリップさせやすくなるのだ。

爆発と爆発の間にタイヤが休める期間がある、ということはつまり、ドンとトルクがかかってリヤタイヤがズッと滑ったとしても、次の爆発までにグリップを自然に回復するチャンスがある、ということだ。決してズバーッと一気に真横を向くようなことはない。

そのかわり、回し込んでいくと爆発間隔が短くなるし、発生するトルク自体も頭打ち感が強まってしまうい、ただ回っているだけという状態になり、タイヤが地面を蹴る感触は希薄になる。

これに対してマルチはどうだろう。小さいピストンが4つ、連鎖的に爆発し続け、この連鎖こそが高出力を生む源なのだが、当然トルク変動は小さい。いったんリヤタイヤがグリップを失って滑り出すと、アクセルを戻さない限り容易にはグリップを取り戻せないのだ。1発1発の爆発力は小さくても、滑りかけているタイヤに連続して負荷を掛け続けてしまうため、滑り出すと一気に大ブレークする傾向がある

中間的とも言えるツインはどうだろう。これはシリンダーのレイアウトやクランクのデザインなどによって、いろいろな種類があって、そのどれもが特徴を持っている。並列ツイン一つとっても、180度クランクならシングルの半分の周期で爆発するが、360度クランクだとピストンを2つに分けたシングルのようなもので、爆発の周期はシングルと一緒になる。が、両方とも、回していくとタイヤが地面を蹴る感触が希薄になっていくのはシングルと同様だ。

これに対して特徴的なのがVツインで、これは爆発のタイミングが等間隔にはならない。ドドッ、ドドッと脈動するように爆発する。当然振動も増えるが、90度Vツイン(Lツイン)という構成を取ると、理論的な1次振動が0にできる上、トルク変動も大きく、タイヤの休めるグリップのいいエンジンに仕上がる。TRXが並列ツインのエンジンブロックを用いながら、270度クランクを採用したのは、90度Vツインと同じトルク変動、トラクション効率を狙ったためだ。

つまり、低回転から高回転まで、全回転域を通じてVツインがもっともトラクション効率がいい、と言えるだろう。マルチは低中回転域でアクセルを開けてイライラ待ったあげく、いざ高回転域に達すると、今度はいつタイヤが滑り出すのか、神経を尖らす必要があるという、まったくどうすりゃいいの?というエンジンなのだ。

これがオレには我慢がならない理由・その3だ。だからシングル・ツインが好きなのだ。

車体のレイアウトに対する影響

ハンドリングを考えたとき、ハッキリ言ってエンジンは小さければ小さいほどいい。普段4stに乗っているライダーが、2stの250に乗ってみると、車体全体に占めるエンジンの大きさ、重さの少なさに感銘を受けることも多いはずだ。普段、いかにドッコイショ、と走っているのか痛感するに違いない。

同様のことはシングル、ツイン、マルチの間でも言える。シングルのエンジン形態はほとんど、直立から少し前傾させたものだ。水平ってのはまずない。こういう構成だと、必然的に、前後左右に小さく、背高ノッポなエンジンになる。特に4バルブだとますます頭でっかちのエンジンになりがちだ。だが、これが実は効率良く曲がれるエンジンなのだ。

もともと左右への張り出しが少ないため、少しのバンク角でも、重心の移動量は相対的に大きくなる。グラリと倒れ込みがちな反面、それを利用することによって、リーンの際に強く向き変えでき、浅いバンク角でもグングン回り込めるのだ。

バンク角が少なくても良い、というのは、見栄で深くバンクしたい人以外にはメリットが一杯だ。なにしろタイヤに負担をかけないので思いっきり良くアクセルを開けられるし、シングルは開けたその回転数がすなわちパワーバンドだ。ハッキリ言ってこれはオイシイ。オイシ過ぎる。

その反面、車体に占めるエンジンの支配度が低いため、ラフな体重移動などは厳禁だ。簡単に車体がグラついてしまい、その都度タイヤの接地面圧が変化してしまい、進路が乱れてしまう。

ツインは、というと、これはもうエンジンのレイアウトで千差万別の表情を見せる。並列ツインはちょっと太めのシングルというのがピッタリくる反応をするし、グッツィに代表される縦置きVツインは、進行方向にクランクが置かれているので、ヘタなマルチよりよほど直進安定性がある上に、軽やかなリーンも許容する。BMWのボクサーツインも傾向としては同じだ。縦置きのクランクはリーンを邪魔しないのだ。DUCATIやVTR、TLなどの90度Vツインは、左右の幅はシングル並みに細いためリーンは極めて軽やかだし、後ろバンクのシリンダーによって、かなり背の高いエンジンとなるため、浅いバンク角でも強く旋回するという特長も受け継いでいる。

なかでも前バンクがほぼ水平、後ろバンクがほぼ垂直というレイアウトのLツインは、通常のVツインでは不足しがちなフロントの分布荷重を、より増やせるという面で、とてもすぐれたデザインだと思う。

これに対してマルチはどうかというと、車体に対するエンジンの支配度は極めて大きい。最新のマルチでは非常にコンパクトなエンジンが多くなってはいるものの、それはあくまでもマルチとしては、という前提だ。また、仮にツインのエンジンと大差ないサイズ、重量に4気筒をまとめたとしても、クランクそのものが長いし、高回転でブン回るのだから、軽やかにリーンしろというほうが無理というものだ。

また、フロントタイヤに覆い被さるようにエンジンがマウントされているため、普段は大きな安定感に包まれているかわりに、ハードにブレーキングするときは常に、フロントタイヤのグリップ限界に神経を尖らせる必要もある。タイトターンがそもそも苦手な宿命なのだ。

これがオレには我慢がならない理由・その4だ。だからシングル・ツインが好きなのだ。

トータルで見て、高速域での性能、長いストレートでも簡単にマルチに置いていかれないパワーと、タイトコーナーを苦にしないハンドリングを兼ね備えているのはツインのバイク、コレしかない。


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